理系の出身で製造業の業界動向を調べている方は、うまく情報収集ができていますか?業界全体の動きをつかむのは、けっこう難しいですよね。今回はそんな方たちのために、業界動向のまとめをご紹介します。
「ものづくり大国」と言われる日本ですが、中国・韓国といった新興国の追い上げを受けて、厳しい状況になりつつあります。しかし、先ほど申し上げた新興国のメーカーでも、工場の製造装置は高品質・高精度な日本製に頼っています。日本の技術力は、やはり今なお強い力を発揮しているのです。
2008年に発生したリーマン・ショック以降、日本企業は生産コストの安い海外へ製造拠点を移転し、OEMを加速させました。さらにアベノミクスの円安ドル政策などによって、再び世界市場での商品競争力が復活してきたように感じられます。この景気回復に伴い、エンジニアの採用ニーズが活性化しているのです。その中における、各産業の動向を解説しようと思います。
高品質より低価格:精密機器業界の動向
技術力において日本が市場をリードしている電子機器や光学機器、医療機器などをはじめとした「精密機器」。円安の影響や需要の増大を受けて、リーマンショック以降の落ち込みからは回復しつつあり、採用を昨年より拡大した企業も増加しています。
とはいえ、製品の技術レベルが向上するにつれて、特にコンシューマー向けの製品に関しては、顧客の要求がこれまでの「より高品質・高スペックの製品」から「より低価格な製品」へとシフトしている現状があります。海外メーカーとの激しい価格競争にさらされている家電や、コンピューター用半導体などの業界における状況を見る限り、今が精密機器業界の変革期にあたるといえるのではないでしょうか。
そのため企業が、これまで強みとしてきた製品や技術を転用して、より競争力を発揮できる別の市場へ新規参入しつつあります。たとえば光学機器メーカーが医療機器へ参入するにあたり、経験のあるエンジニアを募集するなど、業界の枠を超えた採用を行っている例も珍しくありません。
回復傾向にあるとはいえ、採用枠という点においては、まだまだ厳しい状況にある精密機器業界。エンジニアとして活躍できる可能性を広げるためにも、特定の分野だけにこだわるのではなく、自分の経験をどのように活かせるかイメージしたうえで、幅広い業界への視点を持つことが大事だといえます。
リーマンショックで市場は縮小傾向:半導体エンジニア
富士通やルネサスエレクトロニクスなどの大手半導体メーカーをはじめとした業界再編成、リストラの動きはようやく一段落しており、景気回復の兆しも見えています。しかし、転職市場における厳しさは、これまでとあまり違いはありません。特に、早期退職制度などで会社を離れた40代の多くの半導体エンジニアが、いまだに転職活動を実施しています。そのため採用枠が出ても、すぐに埋まってしまうという現状です。
そこで増加しているのが、海外の半導体メーカーへの転職です。一時期、サムスン電子やSKハイニックスといった韓国企業が日本人技術者の主要な転職先として注目されていました。最近はサムスン電子にならい、日本人技術者の採用を強化する中国企業が増加。これには中国での採用だけでなく、日本国内に設立された拠点での採用も含まれています。
半導体業界の転職市場における特色として、設計開発ではない周辺業務におけるエンジニアの募集が増加していることが挙げられます。ここ最近は、コスト削減のため製造拠点を海外に移転したり、販売強化のため営業拠点を海外に設けたりするメーカーが少なくありません。これらの拠点で必要となるのが、現地のエンジニアを教育する担当者や、海外顧客に対して技術的なサポートを提供する「フィールドエンジニア」と呼ばれる職種なのです。
まだそれほど数は多くありませんが、フィールドエンジニアに関しては国内の生産拠点における採用も出始めています。エンジニアとしてのキャリアを活かせる新たな選択肢のひとつとして、検討してみてはいかがでしょうか。そうなると、英語力は嫌が応にも必要になります。
たとえ国内メーカーであっても、いまや製造拠点や顧客は全世界に広がっていることが珍しくありません。量産の過程でトラブルがあれば、設計を担当したエンジニアが直接現地に飛んで対応するのが当たり前。顧客のニーズをくみ上げ、開発部門との橋渡しを行うフィールドエンジニアも、英語力は必須でしょう。
自動車メーカーの好調を受け、求人数も増加
日本自動車工業会の発表によると、2016年度における四輪車の国内総需要は前年度比で102%。自動車業界の好調が目立った年となりました。それに伴い、転職市場においても他業界に先駆けて求人数が上昇に転じるなど、チャンスが広がりつつあります。なかでも注目したいのが、一次請けと呼ばれる、自動車メーカーに直接部品を納入するサプライヤー企業です。
上記の自動車業界の活性化に伴い、これまでサプライヤーでは、部品製造やメーカーからの受託開発が主体でした。しかし近年では、EVなどのエコカー関連技術などをはじめ、積極的に独自開発に乗り出す動きが出ています。
自動車業界では伝統的に、業界での経験がないエンジニアの採用を敬遠する傾向がありました。しかし高い技術を持ったエンジニア不足している状況を受け、2~3年前より転職市場における間口が広がりつつあります。
たとえば、ノートパソコン用の燃料電池を開発していたエンジニアが、まったく業界における経験がない若手であったにも関わらず、自動車用燃料電池の開発を目指すメーカーに採用された事例がありました。これは、以前では考えられなかったことでしょう。
レーダーやカメラと連動した衝突被害軽減システムや運転支援システムなどをはじめ、自動車の設計にさまざまな先端技術が取り入れられたことで新たな要素技術が加わり、これまで自動車業界とは関連がなかった分野におけるエンジニアも求められています。
特にここ最近においては、サプライヤーによる電気/電子制御設計技術者の求人が目立つようになりました。2020年前後より本格的なEVの普及がはじまる予測もあり、これらの設計開発に携わるエンジニアのニーズが増すことは間違いありません。
参考元:一般社団法人日本自動車工業会「2017年度(平成29年度)自動車国内需要見通し」
国内の工作機械受注好調、エンジニアへの需要高まる
一般社団法人日本工作機械工業会の調べによると、2017年9月の工作機械受注総額(速報値)は1493億9600万円。前月比111.9%、前年同月比145.3%と増加しています。
もともと工作機械は製造業の先行指標といわれ、景気の状況により投資対象は欧州、米国、アジアと、国をまたいだ業界再編が続いてきました。昨今の景気動向を鑑みると、工作機械・部品メーカー各社にとって日本市場への投資の見通しがポジティブなものとなっているといえるでしょう。
転職市場においては、「グローバル化」が大きなキーワードとなっています。自動車業界への転職にあたり、技術的に高いスキルが要求されるのはもちろんですが、サプライヤーにおいても受託開発の案件が増えていることから、エンジニアのコミュニケーションスキルが重視されています。
たとえば、品質管理基準が異なる海外の受託先とやり取りし、決められた工程通りにプロジェクトを進めるためには、各種の調整能力が欠かせません。
またサプライヤーの多くが新興国メーカーへの展開も意識していることから、いまや英語力が必須となっています。具体的には、採用にあたりTOEICの点数で650~700点という基準を示す企業が多いようです。あくまで基盤となるのはエンジニアとしての力量ですが、中途採用では上記のような「プラスワン」の能力が評価の決め手となります。
参考元:一般社団法人日本工作機械工業会「工作機械統計 2017年9月分」