外資系企業と日系企業のどちらも経験してみて
皆さんは「外資系企業に勤めている人」と聞くとどのような印象をお持ちでしょうか?やはり「給料高そう」「外国人の上司がイケてそう」「即戦力主義」といったイメージがあるんじゃないでしょうか?
一口に外資系・日系と言っても、当然会社により文化は全く異なるため精緻に分別することは不可能なのですが、これまで私自身が日系企業で7年間(2社)、外資系企業で7年間(2社)経験したことを振り返ってみると、確かにいくつかの特徴的な違いは存在しているように思えます。これからそれらを少し洗い出してみようと思います。
経営方針の違い
経営方針とは、会社が直面しているいくつかの課題に対して今後どのような姿勢で臨んでいくのかを社長や経営陣の言葉でまとめたものです。例えば「3年以内に業界首位になる」や「個人情報漏洩リスクの撲滅」等です。そしてこの方針に基づき、各本部で中期経営計画が策定されます。この仕組は日系企業も外資系企業も同じなのですが、日系企業が「日本人の常識」に基づき経営方針を打ち立てるのに対し、外資系企業は「本国周辺の常識」に基づき方針が策定されるため、日本人がそれを和訳して読んだ際に違和感を覚えることが多いです。
外資系の経営方針には主に2つのタイプがあり、こんな感じです。
- 1.本国が日本の財務指標や四半期報告を中心とした材料だけで勝手に現状課題を定義し、方針を定める。
- 2.経営方針をグローバル共通のものとし、極めて抽象的な方針を定める。
といったものがあります。ちなみに2つ目の事例では「様々な先進技術を活かした業務のデジタライゼーション加速」などというものがありました。一体何をすればよいのかよく分かりませんよね?
このため2つ目の事例には大体各拠点のトップが内容を自分の都合の良いように解釈し、その解釈を元に中期経営計画を立てる形となります。1つ目の事例にはいくら理不尽でも本国に逆らう余地はないので、それを実現するために極めて厳しい計画が策定されることが多いです。
私のいた会社では多くのケースにおいて目標が厳しすぎて達成できていませんでした。その点、国内企業はトップが日本経済や自社の状況を理解していることが多いため、現実的な方針が定められているように思えます。ただし、国内企業のトップの方は短期間で成功を求めるタイプが外資系に比べ比較的少ないため、経営方針は毎年同じような内容で余り組織に対して効力を発揮していなかったように思えます。
組織の違い
日系企業の場合
日本企業の組織は基本的には上意下達の構造で、本部長は部長へ、部長は課長へ、課長は平社員へ指示を下し、レポートラインもこの逆となっています。また部署(部門)毎にも縦割構造となっているため、他部署とコミュニケーションを取る際には基本同級の役職同士でないとガバナンス上問題となるケースが多いです。
このため、国内企業のメリットとしては、「決定がそれに相応しい者によりなされる(=責任関係が適切になる)」という部分かと思います。デメリットとしては、例えば企画系のような「好みが別れる」仕事については、最初に平社員により企画された内容が上に行くにつれ好みにより次々に形を変えられ、本部長が決定する頃には原型を留めないようなケースがあります。またその意思決定が遅いのも特徴です。
外資系企業の場合
一方で外資系企業の特徴としては、基本上位役職者(部長、本部長等)に外国人の方が本国から据えられているケースが多く、彼らは余り体系だった組織を好まないことが多いです。このため彼らは役職にかかわらず自分の欲しい知識を持っている人間を直接呼出し、例えば課長や部長が知らない所で直接平社員に指示を飛ばすケースも往々にしてあります。
その結果、レポートラインも相当厳しく管理しないと直ぐに崩壊する危うさがあり、結果的にはあまり役職による仕事のレベル差が無くなっていくイメージです。
外資系では部下を持たず基本一人で、仕事に必要な人を都度巻き込みながら業務を遂行していく「プレイングマネージャー」と呼ばれる人々が結構います。彼らは上意下達にも縦割構造にも影響を受けず、組織のある機能のスペシャリストとして本部長直下で指示を受け行動をします。非常にリベラルな職務である反面、責任は一人で負うため実力者であることが常に望まれます。
外資系企業の組織のメリットとしては、本部長以下がかなりフラットなため意思伝達が早く、自分の意見が直接トップに届きやすい点です。デメリットとしては日系企業と逆ですが、身分不相応な方が過剰に責任を負わねばならないようなケースが時々発生することです。若い方へのアドバイスとしては、外資系企業では「直属の上司は自分を守ってくれる」という考え方は余り過信しないことをお勧めします。
報酬体系の違い
よく社会では「外資系の方は給料が高い」と言われていますが、私が過去に所属した保険業界については全く当てはまらない内容でした。私が知る限り、日系企業も外資系企業も目標設定や評価方法についてさほど差が無く、大半が「普通」の評価となる点も同じでした。給与水準もほとんど変わりません。ただし外資系企業の特徴としては、本部長(執行役員)以上の役職から突然給料が跳ね上がり、更に同職位の役員でもヘッドハントされた時の契約金額の違いから、かなり格差があるようです。
前出の「組織の違い」でも少し触れましたが、本部長以上は本国から派遣されたり、ヘッドハント組が多いため、それまで一段ずつ上がって部長まで来た人とは報酬体系が全く異なっています。また外国人の方ですと、彼らの本住所(アメリカの田舎町など)と同じ居住待遇を保障するという特別ルールが適用されることが多く、赤坂や六本木のタワーマンションで150㎡超の部屋に住み、家賃は全額会社負担という役員も何人かいました。
一方、日系企業は部長以上の役職でも順当に下から上がってきている人間が多いため、給与の伸びも人により大差はないように思えます。結論としては、部長以下では日系企業と外資系企業の間でそれ程の差はないように思えたということです(外資系証券会社や投資銀行が特殊なのかも知れません)。
人材育成の違い
日系企業の場合
人材育成に関しては、国内企業と外資系企業で大きな差があるように思えます。日本企業のスタンスは、若手から採用し、退職するまでのキャリアパスのモデルが確立されており、それに乗るスピードが早いか遅いかで出世を競うようなスタイルになっています。従って、各階層におけるトレーニングメニューが充実していたり、1つ上の役職の先輩が後輩を育て、やがて後輩がそこに上がると共に先輩も上がっていく・・・といった部活動のような仕組みが根強く残っています。これは若手にとっては、大変良い環境で、独学よりも効率良く、多くのことを会社のお金で学習できるという強いメリットがあります。
外資系企業の場合
一方、外資系では日本に比べてキャリアパスのモデルが曖昧で(無い会社もある)、研修も自費で参加せねばならないケースも往々にしてあります。また転職組が多い部署では先輩が後輩を育てる文化はほとんどないため、若手にとっては大変な場所になるかと思います。外資系企業としては、基本「生き残った」若手が活躍してくれればよいわけで、足りなければ外から採用するというスタンスが強いかと思います。それは、いつ辞めるか分からない人間に対し研修や育成のために貴重な予算や人を裂きたくないという合理的な考え方に基づいているようです。
このため、結論としては若手の頃には国内企業の豊富なトレーニングでスキルを磨かせてもらい、それを武器に高給で交渉して外資系企業へ転職し自由に活躍する、というのが1つのキャリアモデルになるのかも知れません。
まとめ
日系企業と外資系企業。どちらを選ぶのが自身にとって成功に繋がるのか?という観点で考えたとき、まず意識しておくことは「自分はこれから何を売りにして生きていくのか?」という考えです。仮にこの答えが「自分の売りは継続性だ!」や「売りなんてない!生活のためとりあえず働く!」といったものであるのならば、間違いなく国内の企業をお勧めします。国内企業は「とにかく留まって働き続けている人」を比較的に大事にするからです。
一方「自分の売りを3年で確立したい!」「自分のスキルを高く評価して欲しい!」といった、自分を売り込むことを怖れない人は、ある程度スキルがついた時点で外資系企業にチャレンジをしてみるのも面白いかもしれません。最近ではキャリアの選択肢が昔に比べ格段に増えたため、自身の10年後を想像しながら早めに行動を起こしていくことが肝要かと思います。