もくじ
この記事では、そんな「構造設計」と呼ばれる仕事について、仕事内容やもっていると便利な資格について解説します。
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構造設計には2つの種類が存在する
構造設計は、文字どおり構造を設計する仕事。
ですがその際、前提として知っておいてほしいのは「構造設計という仕事は2種類の業界で存在する」ということです。
一つは、建築に携わり、建造物の構造を設計する仕事。
そしてもう一つが電機・機械などの製造メーカーに関わる業界で、機械の構造を設計する仕事です。
それぞれ、どういった内容なのか見ていきましょう。
1.建築仕事としての構造設計
建築での構造設計は、建築設計士が担っている業務のうちの一つです。
詳しくは後述しますが、建築設計においては「意匠設計」「構造設計」「設備設計」が存在します。
それぞれ、見た目などのデザインに関する設計、強度や安全性などの建築構造に関する設計、電気設備や上下水道などの環境衛生に関する設計を担っています。
建築設計は、安全な建築物を造るうえで欠かせない仕事なのです。
2.車のボディなど機械設計としての構造設計
電機・機械関連の構造設計は、機械関連の設計が担う業務の一つです。
機械設計の中には、「構造設計」と「機構設計」があります。
新車を作る際を例に見てみましょう。
事故を起こしてしまった際、人にぶつかってしまったとしたら、頑丈すぎるボディではぶつかった人に大きな被害を与えてしまうため危険です。
反対に、建物などにぶつかってしまった際には、ボディが柔らかいと車に乗っている人を守ることができません。
そのため近年の自動車では、ある程度「フロントなどのパーツを壊れやすくすることで衝撃を逃がしつつ、頑丈なフレームで搭乗者の安全を守る」といった設計がされています。
こういった、構造に関する設計が「構造設計」です。
一方で機構設計は、車内に設置する機械部分の挙動や電気的な設備の設計を担っています。
当然ですが、どちらか一方だけでは新車を生み出すことはできません。
機械設計の構造設計は、製品の根幹を担う設計業務のうちの一つなのです。
構造設計の仕事内容を解説
1.建築における構造設計の仕事
建築において構造設計を行う人は、基本的に「建築設計士」です。
ですが、建築設計を中心に行う人を指して「構造デザイナー」「構造技術者」などの呼び方もあります。
それらの呼び方は多々あれど、概ね仕事内容は同じ。
構造設計の仕事を見るために、建築設計士の仕事をまずは確認してみましょう。
意匠設計 | 建物の見た目に関するデザインを行う |
構造設計 | 基礎や土台、耐震設計、強度や安全性能に関わる設計を行う |
設備設計 | 建物内に設置するキッチンやトイレ・風呂といった電気設備や上下水道などの配置・設計を行う |
構造設計だけで独立しているわけではありません。
意匠設計の提案するデザインを満たすための構造を考えたり、設備設計の案を満たせるような耐荷重構造を検討したり、それぞれの仕事が組み合わさっています。
かつてはそれぞれの業務が段階ごとに行われ、意匠設計→構造設計→設備設計というように、一方通行で建物の設計が進んできました。
ですが近年では、それぞれの業務の明確な線引きはなくなりつつあります。
それぞれが関わって妥協点や最善策を探したほうが、結果的に良い建物になるためです。
構造設計はその性質上、法的な安全基準を満たす設計を行う役割を担うことになっています。
監修者コメント
岡本啓毅HIROKI OKAMOTO
構造設計の仕事内容は変化している
安全面に配慮しなければならない構造設計の仕事で、大きく影響しているのは耐震性です。
日本はただでさえ大きな地震が多いといわれています。
そして大きな地震に見舞われるたび、耐震基準が変化してきました。
いわゆる「旧耐震基準」と呼ばれるものは1981年まで適用されていました。
これは中規模の地震を想定したもので、震度5強程度に耐えるまでしか想定されていません。
そのため、旧耐震基準では想定されていない震度6以上の大地震があったときに、被害を生んでしまったのです。
その後、1981年からは、いわゆる「新耐震基準」と呼ばれるものが適用されてきました。
こちらは大きな地震も想定した内容でしたが、1995年に発生した阪神淡路大震災を経て内容が改正され、現在でもその内容が適用されています。
地盤調査や建物全体としての耐震バランスなどの見直しも盛り込まれたもので、「新・新耐震基準」や「2000年基準」と呼ばれており、今までで最も厳しい内容です。
このように、構造設計が考えるべき内容は、時代とともに変化しています。
そしてそれは、我々の安全を守るために重要なことでもあるのです。
2.機械における構造設計の仕事
機械における構造設計は、主に電機機器メーカーや自動車メーカーといった製造メーカーで求められる仕事です。
前述のように機械設計には構造設計と機構設計があり、これらも建築の各種設計と同じく、お互いの仕事が密接に関連しあっています。
構造設計では主に、製品の強度や耐久性、安全性などが考慮された設計と検証が行われます。
新製品を作る際、開発チームの機構設計は新しい機能を盛り込もうとするでしょう。
ですが、それを満たすためには既存製品のパーツ構造では不可能である場合も多いのです。
そういったとき、決められた耐久性を維持しながら、なんとかして新しい機能を発揮できるような構造を生み出す必要があります。
構造設計は、そういった構造面の設計を主業務としています。
監修者コメント
岡本啓毅HIROKI OKAMOTO
機械設計において構造設計に限定して仕事をすることは少ない
機械設計を行う場合、あまり構造設計だけを考慮することはありません。
機構設計のことも考えながら構造を決めなければなりませんし、そのためには機構設計に関する知識も必要です。
もちろん、機構設計を担当する側も構造的に不可能な機構を提案するわけにはいかないため、構造設計の知識を有した状態で機構設計を行います。
そして製品として販売する場合は、効率的に梱包できるよう、「包装設計」という仕事が登場する場合もあります。
製品を店舗に運んでいる最中に揺れたりぶつかったりしたとき、壊れないような梱包の仕方をしなければなりません。
また、どんなに安全に梱包したとしても、過剰梱包だったり形が歪だったりすると、流通させる際に効率よく荷積みができなくなってしまいます。
そのためには、包装に関する特化した知識が求められます。
とはいえもちろん「ぶつけても安全な場所はどこか」「どの位置を重点的に守るべきか」といったことは、構造設計や機構設計を知らなければ判断できません。
包装設計にも、構造設計や機構設計の知見が求められます。
このように機械設計は各種の業務内容としては独立していますが、どれか一つの仕事をするにしても、それぞれ別の設計に関する知識を活用する必要があるのです。
構造設計技術者の年収
厚生労働省の職業情報提供サイト「Jobtag」から、構造設計技術者の年収相場を見てみましょう。
建設系の設計技術者と、機械系の設計技術者の年収を年代別に集計した資料を表にまとめました。
【構造設計技術者年齢別平均年収】 (単位:万円)
年齢 | 建設設計技術者 | 機械設計技術者 |
---|---|---|
20~24歳 | 360.96 | 359.34 |
25~29歳 | 479.47 | 469.40 |
30~34歳 | 599.99 | 548.23 |
35~39歳 | 676.10 | 647.94 |
40~44歳 | 710.98 | 658.94 |
45~49歳 | 726.97 | 686.45 |
50~54歳 | 774.84 | 740.62 |
55~59歳 | 777.48 | 728.80 |
60~64歳 | 600.43 | 557.45 |
参考:厚生労働省「職業情報提供サイトJobtag建築設計技術者」年齢別年収グラフ
参考:厚生労働省「職業情報提供サイトJobtag機械設計技術者」年齢別年収グラフ
企業の規模や任される仕事の範囲によって、給与額は異なります。
しかし、構造設計の仕事は、高い専門性を求められる仕事であるためか、全年代を通じて高い水準であることには間違いないようです。
構造設計の仕事の魅力とやりがいとは?
構造設計の仕事は、建築設計・機械設計いずれにせよ、自身が手がけた仕事が形となって残り、多くの人の目に触れる仕事です。
この点は、大きなやりがいにつながるでしょう。
また、どんなに優れたデザインでも安全性が確保されていなければ、安心して建築物や機械を使用することはできません。
構造設計は人々の安全を守る仕事でもあります。
責任を伴う反面、その分達成感や誇りを感じられるのではないでしょうか。
構造設計の仕事は何が大変で難しい?
構造設計の仕事で大変な部分は、やはり周囲との調整が必要な点だといえます。
建物や機械の設計は構造設計者の意図が全面的に反映されるのではなく、クライアントの希望に沿って進めなくてはなりません。
また、プロジェクトに関わる人たちが、それぞれの立場で要望を挙げてきます。
こうした様々な要望を調整しつつ、もっとも重要な安全性を確保しなければならない点が、大きなプレッシャーとなることもあるようです。
構造設計の仕事に向いている人の特徴
構造設計の仕事は、建物や機械の安全を確保するという側面がある以上、やりがいがある反面、ある程度のプレッシャーは覚悟しなくてはなりません。
以下に挙げる特徴にあてはまる人は、構造設計者として活躍できる素質があります。
1.スケジュール管理に長けている人
建築や機械の開発において、構造設計は根幹に関わる重要な部分であり、構造設計が完了してから他の工程を始めるという側面があります。
構造設計者がスケジュールにルーズであれば、プロジェクト全体が遅延し、関わる多くの人々に迷惑をかけることになります。
細やかな進捗管理や調整が必要になるため、スケジュール管理に長けている人は、構造設計の仕事に向いているといえるでしょう。
2.細部まで細やかに目が届く人
構造設計の段階でミスがあると、利用する人々の安全を確保できなくなります。
人の命に関わるため、ほんのちょっとしたミスも許されない仕事です。
そのため、広い範囲に目が届く細やかさや、些細なことでも確認を怠らない几帳面さが求められます。
こうしたことが苦にならない人は、構造設計者として良い仕事ができるでしょう。
3.コミュニケーションスキルが高い人
建築や機械開発においては、様々な工程を担う関係者と綿密な連携をとる必要があります。
構造設計は根幹に関わる部分であるため、各関係者と密なやりとりをしなくてはなりません。
そのため、コミュニケーションスキルが高くなければ、仕事をスムーズに進められなくなってしまいます。
誰とでも正確な意思疎通ができることは、構造設計者にとって必須のスキルといえるでしょう。
4.柔軟な対応ができる人
どのようなプロジェクトでも、急な変更により調整が必要な局面が出てきます。
クライアントの意向や、各関係者との調整により、当初の計画を大幅に変更しなくてはならないこともあるでしょう。
こうした場面でもストレスを感じず、柔軟に対応できる人は構造設計の仕事に向いています。
5.責任感が強い人
構造設計の仕事は、建物や機械の安全の根幹に関わります。
そのため、柔軟な対応をしながらも、安全に対する妥協は許されません。
クライアントや他の工程の担当者の意向を聞きながらも、それが安全を損なうものであれば、強い姿勢でお伝えする必要があります。
こうした責任感は構造設計に携わる人にとって、必須の資質といえるでしょう。
構造設計を仕事にする方法3選
1.大学・高専・専門学校の関連学科に通う
一つ目が、建築または機械に関連する学校に通い、体系的に学ぶ方法です。
前述のように、文系や未経験から構造設計の仕事をするのは、基本的に厳しいのが現実です。
まずは関連した仕事をして、そこから段階的に設計に関わるといったキャリアプランとなります。
ですがたとえ未経験だとしても、完全に未経験の場合と、専門の学科を卒業している場合では、後者のほうが有利になります。
加えて、後述する資格取得に関しても学校で勉強していた人が有利です。
まずは「学校に通って知識を身につける方法がある」と覚えておいてください。
建築系学科の出身者の就活は以下の記事もご確認ください。
2.役立つ資格を取得する
詳しくは後述しますが、資格をもっていれば文系や未経験でも構造設計の仕事に就ける可能性があります。
資格をもっていれば「完全に未経験」ではなく、「未経験だが、根拠がある知識をもっている」と見なされ、選考上有利になるためです。
また、資格があるということは資格勉強の過程で「専門分野について勉強した」という根拠にもなりますし、熱意も伝わります。
難しい資格もありますが、資格を取得してから構造設計の仕事を目指すのも手段の一つです。
3.近縁の仕事をしながらキャリアチェンジする
これは機械の構造設計に関してですが「技術職としての経験を積んでキャリアチェンジする」という方法もあります。
技術職の中には、開発や設計以外にも、生産ラインを最適にする仕事や保守の仕事などもあります。
そしてそれらは密接に関わっており、完全に独立した業務はありません。
生産ラインなどの仕事から少しずつ開発寄りの業務を増やしていき、キャリアチェンジして構造設計ができる仕事に就く方法もあります。
構造設計で活躍するために役立つ資格
建築にせよ機械にせよ、構造設計を仕事にする際には資格があれば活躍できる可能性が高まります。
資格取得の課程で専門的な知識を身につけられるだけでなく、資格をもっていればできる仕事の範囲が増えるためです。
信頼されて仕事を任せてもらえるという意味でも仕事の範囲は広くなりますし、その資格がなければ扱えない許可制の業務ができるようにもなります。
入社後に資格を取得することもできますが、事前に取得していれば選考で有利です。
ここからは、そんな構造設計で活躍するために役立つ資格について解説していきます。
1.建築における構造設計の場合
基本的に建築設計士は、建築士に関連した資格をもっていないとできる仕事が限られます。
建築物は周囲の住・生活環境にも影響を与えますし、マンションやデパートなどの大型建造物の安全性は多くの人々に影響を与えます。
そのため、規模が大きな建築物であるほど、難易度の高い国家資格が必要です。
建築の構造設計をする場合「実質的に何かしらの資格をもつことが必須」と考えて間違いないでしょう。
そんな建築における構造設計で役立つ資格を3つ紹介します。
一級建築士
一級建築士は、建築士のなかでも特に上位の資格です。
建築士法にも定められた国家資格であり、二級建築士までは設計する建物の大きさや規模に制限がありますが、一級建築士にはその制限がありません。
この資格をもっていれば様々な種類・規模の建物の設計や工事監理ができるようになるため、構造設計においても幅広い活躍ができるでしょう。
受験資格は、大学、短大、高専の建築学科を卒業している場合は実務経験なしでも与えられます。
上記の学科を卒業していない場合は、まずは二級建築士の資格取得が必要です。
二級建築士は、建築会社や設計事務所などで7年以上の実務経験を積むことで受験資格が与えられます。
例年、10%ほどしか合格しないといわれる難しい試験でもあります。
構造設計一級建築士
構造設計一級建築士も国家資格の一つです。
これは平成18年に創設された比較的新しい国家資格であり、先ほど説明した一級建築士よりもさらに高度な資格です。
一級建築士として5年以上の構造設計の実務経験を積むことで、受験できるようになります。
高度な設計が求められる一定規模以上の構造設計を担当できるようになり、構造設計の仕事を受けやすくなる資格です。
JSCA建築構造士
JSCA建築構造士は、上記2つとは異なり民間の資格です。
公式サイトには下記のように示されています。
“JSCA建築構造士とは、一般社団法人日本建築構造技術者協会[JSCA]の責任において、社会に推薦しうる構造設計者の呼称です。”
“構造設計一級建築士の中でも特に建築構造の全般について、的確な判断を下すことのできる技術者です。”
引用:JSCA公式サイト「JSCA建築構造士とは」
受験するには一級建築士に登録してから責任のある立場で実務経験を積む必要があり、難易度は非常に高い試験であると考えて間違いありません。
民間資格ではあるものの、多くの建築士が登録しています。
2.機械における構造設計の場合
続いて、機械における構造設計の資格を見ていきましょう。
こちらも建築の場合と同様、もっていると仕事の範囲が広がる資格が多く存在しています。
実務経験がなくても取得できるものもありますので、構造設計の仕事を目指す際に取得するのもおすすめです。
技術士機械部門
技術士機械部門とは、文部科学省が管轄する「技術士」という国家資格の一つの部門です。
機械や設計に関連した知識を問われるもので、実務経験も求められます。
多くの建築物や施設では設備設計に関して、設計管理士など技術的な責任を追う人の設置が義務付けられています。
技術士機械部門の資格があれば、その責任者となることが可能です。
機械設計技術者
機械設計技術者とは、一般社団法人「日本機械設計工業会」が主催する民間資格の一つです。
その創設に関しては、公式サイトに以下のような言葉があります。
“機械設計技術者試験の実施によって、設計技術者の能力向上の促進、技術者の社会的地位の確立、機械設計業務に係る業務取引基準の明確化等の様々な社会的効果が期待できます。”
引用:機械設計技術者試験「試験の必要性と目的」より
技術の急速な発展を受けて、それを利用する機械や設備の設計にも技術的知識の高度化が求められています。
そういった要求に対応するために設けられた、機械設計に関する業務能力や知識が問われる資格です。
機械・プラント製図技能士
機械・プラント製図技能士とは、特に複雑な機械設備やプラントの設計図を作成する能力が問われる資格です。
国家資格であり、機械に関する知識や製図スキルが高度に求められる、難しい資格です。
以下の3つに分かれており、それぞれ1~3級または1~2級の難易度に分かれています。
機械製図手書き作業 | 機械製図の手書きスキルが問われる試験 | 1級~3級まであり |
機械製図CAD作業 | 機械製図をCADを使って行うスキルが問われる試験 | 1級~3級まであり |
プラント配管製図作業 | プラント配管の製図能力が問われる試験 | 1級~2級まであり |
まとめ
構造設計は、建築と機械に存在する仕事です。
建築の構造設計は、人々の安全面を守る重要な仕事。
機械の構造設計は、製品の耐久性や性能に関わるため、同じく重要な仕事でした。
いずれにせよ、ものづくりにおける上流工程のため人気があり、やりがいも将来性も大きい仕事です。
一方で、学校で学んだ経験や実務経験がないと、就職や転職は難しい仕事でもあります。
- 構造設計を仕事にするためのキャリアプランを考えたい
- 自分が構造設計の仕事に向いているか確認した
- 構造設計を目指す際の選考対策がしたい
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