医薬品業界は、新薬の開発やジェネリック薬品の浸透で、景気の波を受けずに安定している産業とされています。日本国内の医薬品市場は10兆円を超えており、世界的に見ても第2位と高い水準になっています。
高齢化社会の加速に従い、今後さらに需要の見込まれる医薬品の業界研究をし、理系の就職先が多い業務をご紹介しますので是非参考になさってください。
医薬品業界の基礎知識
創薬にかかる期間とは?
創薬は研究・開発・審査の3つのフェーズにわかれています。はじめに研究で約2~3年かけて候補化合物の合成や選定を行います。
前臨床試験と呼ばれる動物実験に3~5年、その後人に投与する臨床試験を3~7年、その後審査に約1年かかり、創薬には研究・開発・審査で最短でも約10年間もの期間がかかります。
後発薬品(ジェネリック医薬品)
新薬の特許は約10年間。その後特許切れを迎えると、後発薬が発売され薬価がさがります。欧米の70%以上と比較して、日本ではまだ後発薬品のシェアが約50%と低いです。その為政府は2020年度末までにこの比率を80%に高める方針を決めています。
医薬品には大きく分けて2つの販売ルートがある
医薬品は「一般用医薬品」として製薬会社がドラックストアなどを通して販売するものと、「医療用医薬品」として調剤薬局や病院で処方される医薬品があります。
医薬品業界のシェア!業界TOP3まとめ
日本国内TOP3
1位:武田薬品工業
売上高:1兆7778億円
営業利益:-1292億円
京都大学iPS細胞研究所と提携し創薬に乗り出すなど、新薬開発を手掛ける国内トップシェアを誇る企業で、特にがんや消火器系の創薬や、新興国に注力しています。
2014年には、イギリスの製薬メーカーであるグラクソ・スミスクラインから社長を招へいしました。
平均年齢は39.4歳で、平均年収は943万円です。
2位:アステラス製薬
売上高:1兆2472億円
営業利益:1856億円
新薬開発に特化しており、第一三共と化合物ライブラリーの相互利用を行っています。
また世界最大のバイオ企業であるアムジェンとの業務提携を行っています。
泌尿器や移植そしてがんの領域に注力しています。
3位:第一三共
売上高:9193億円
営業利益:744億円
グローバル展開を行うためインドに子会社を所有していましたが、後発薬事業からの撤退を決め、新薬開発に注力する方針を固めています。
医薬品業界における理系向け職種とは?
研究
医薬品として活用することができるか、対象を研究する「基礎研究」を行う部門と、化合物の有効性だけではなく安全性も確認をする「非臨床研究」の2つの部門があります。
また大切なのが「工業化研究」です。
いかに優れた有効性を誇る化合物でも、製造法が確立されなければ新薬として提供することは難しいといえます。
製造法を確立し、品質管理や試製を行うことで、化合物が新薬としてふさわしいかを研究する必要があるのです。
開発
医薬品として可能性が認められた化合物が、人体にどんな影響を与えるのか臨床試験や治験を行い有効性と安全性を調べます。
動物実験を行う前臨床試験と、他人に投与をする臨床試験があり、製造承認申請の前には、数百人以上の患者に投与する大規模な臨床試験を行います。
人に対する臨床試験は病院などの医療機関で行われます。
MR(医薬情報担当者)
かつては「プロパー」と呼ばれていた職業で、医療用医薬品を取り扱います。
医療施設や医師に対して、有用性や安全性の説明をするだけではなく、副作用の症例を収集します。
新薬は発売された後にも、様々なチェックが義務付けられているのです。
医師はMRからの情報提供によって薬の処方を行うので、正確性が求められるだけではなく、現場の声を収集するという重要な役割を担います。
国内では営業職という扱いですが、海外では医療チームの一員として認識をされています。
文系出身者が約5割、理系が約3割、薬剤師が約1割をしめるとされており、理系出身の方も多く活躍なさっています。
医薬品業界のおすすめポイント
最先端の研究に没頭できる
新薬の開発では、日夜最先端の研究を行っています。
最新の技術を駆使して革新的な創薬を目指し、世界をけん引するような研究・開発に関わることは、研究職を目指す理系の就活生にとって非常に魅力的なポイントといえるのではないでしょうか。
平均年収が高い
収入が多く、安定性があるのも医薬品業界の大きな魅力です。
例えば国内5位のエーザイでは、平均年収は1070万円にも上り、6位の中外製薬も年収は937万円と高額になっています。
社会貢献
創薬は病気で苦しむ多くの方を救うことができる社会貢献度の高い仕事です。
多くの人の笑顔を支えるやりがいのある仕事といえます。
医薬品業界の今後の動向
高齢化社会の加速で医薬品のニーズは高まりを見せますが、製薬会社としては厳しい環境になるのではないかと予測されています。
これは、新薬の開発の難易度があがり、ジェネリック医薬品の推進により医薬品の売り上げが減ってしまうためです。
既に簡単な医薬品は開発しつくされており、難易度の高い新薬の開発には莫大な費用が掛かるだけではなく、新薬開発の成功率は何と3万分の1とされています。
最短で約10年間、1000億円前後の費用をかけて開発された新薬の特許が切れるのは約10年後。
ジェネリック医薬品は医療費の抑制に繋がりますが、新薬開発を担う医薬品を取扱う企業にとっては困った一面もあるのです。
その為一部企業は世界市場への進出を進めており、海外売上比率が50%を超える企業もではじめており、今後もグローバルな展開を目指す企業が増加するとみられています。
まとめ
安定性・将来性があると人気の高い医薬品業界ですが、後発薬や海外の大手ファームの日本進出など課題も多くあります。
その為国内企業の多くは、さまざまな企業努力を重ねています。
創薬に注力している企業が多くありますので、研究・開発に携わり、最先端の技術に触れたいとお考えの方にピッタリ。
学部や専攻をいかして研究に取り組む方も多く、理系の強みをいかせる業界といえます。
多くの人に笑顔を運ぶやりがいのある仕事に挑戦してみては如何でしょうか?
参考書籍:会社四季報業界地図2016年版 東洋経済新報社