もくじ
国土交通省の調査によると、毎朝8時の時点で首都圏の鉄道を利用している人の数は200万人を超えているという結果が出ています。東京ドーム40個分の人々が一斉に移動しているというのが、日本という国のラッシュ。毎朝電車の中で押しつぶされるのも、無理ありません。
ここでちょっとしたまめ知識を一つ。日本の鉄道の正確性は、世界と比較すると非常に優秀です。その値、なんと99%。「えっ、鉄道が時間通りに運行することって普通でしょ?」と思いがちですが、世界の鉄道の正確性は70%、はたまた50%を切っているといった国もあるんです!素晴らしい、日本の鉄道!!
移動手段としての存在から、生活の中枢への変貌
そんな日本の鉄道ですが、近年は著しい進化を遂げようとしています。その進化とは、移動手段としての鉄道という存在だけではなく、より幅を広げて人々の生活に浸透しようとしていることです。
例えば、不動産事業、テナント事業、ショッピング事業などが挙げられます。「LUMINE」や「NEWDAYS」などはよく見かけますよね。皆さんも、駅の構内で買い物などをされたことがあるのではないでしょうか。鉄道以外の事業が今、どんどん広がっています。
JR東日本の収益は、メインの運輸業で67.6%、ショッピング・オフィス事業は9.3%、駅スペース活用事業は14.8%、その他の事業は8.3%という内訳になっています。2001年度では運輸業の占有率が71%でしたので、その他の事業収益が微増していることがわかるかと思います。
運輸業に集中して経営を行っていても、かなり充実した鉄道網を張り巡らしているJR。あえてこうした取り組みを行うのは、なぜなのでしょうか。
参考元:JR東日本「財務比較」
平成25年3月期における、JR東日本の売上高は2兆6718億円。これは大手電機メーカー「シャープ株式会社」に匹敵するほどの売上です。これほど順調に経営が進んでいるのに、なぜ今、こうして新しいビジネスを生み出し続けようとしているのでしょう。
当然、「本業と関連しない分野に進出した場合よりも、関連した事業分野への展開にとどまっている方が、収益性はより高い」ことが経営の基本ですよね。それでも進化をしようとする、鉄道業界の今に迫ります。
旅客輸送量の推移に見る、運輸事業の今
参考元:国土交通省「旅客輸送量の推移」より抜粋して作成
上記のグラフによると、JRの輸送量の伸び率は鈍化傾向です。この要因としては、昨今の景気悪化による雇用調整の影響に加え、生産年齢人口の減少という構造的な要因が大きいことも考えられます。今後は鉄道各社にとって、人口の減少による旅客収入の減収は避けられない事態です。つまり運輸事業以外の部分を伸ばしていかなければ、鉄道事業全体がなえてしまいます。
その点を理解した上で、鉄道各社は新たな選択を迫られていることが考えられます。では何を、どのように伸ばしていけば良いのでしょうか。
画像引用元:厚生労働省「日本の人口の推移」
鉄道各社の持ちうる強みを活かす
鉄道各社は本業の運輸事業以外の新たな収益源を確保するため、関連事業への展開に注力するようになりました。その事例としては、「駅資産のもつ『集客力』を活かした流通・テナント事業への展開」や、「沿線開発による定期外旅客の取り込み」「鉄道事業から生まれるキャッシュフロー」の活用などです。
ここで歴史の話を一つしましょう。これまでJR各社においては、旧国鉄時代に鉄道事業以外の関連事業への進出に規制が加えられていたことや、本業の鉄道事業の競争力強化に注力してきたことから、非鉄道事業はあくまで鉄道事業の補完的な位置づけにありました。
分割民営化により諸規制が緩和された後もその傾向は続いていたようですが、ここ数年において非鉄道事業の事業性そのものが注目され、より戦略的に位置づけられるようになりました。
JRが狙う、「駅のブランディング」の行方はいかに
1日の乗降客数が1,600万人となるJR東日本では、「駅」そのものを重要な経営資源とみなし、「ステーションルネッサンス」と称して鉄道事業と生活サービス事業で相乗効果を生み出す駅づくりを開始しました。
その軸となるのが「サンフラワープラン」と「コスモスプラン」と言われるものです。サンフラワープランは1日の乗降人員が3万人以上の駅を対象に、駅構内や駅周辺のスペース活用により流通事業や不動産事業への展開を図るもので、既に9割を超える駅で取り組みが実施されています。
また、コスモスプランは首都圏の乗降人員20万人以上の駅や県庁所在地などの主要ターミナル駅を対象に、駅施設の抜本的な見直しや人工地盤の建設により新たな事業スペースを創出しようとするものです。既にJRの上野駅、立川駅、品川駅などで開業されており、今後さらに拡大を予定しています。
このような取り組みにより、駅そのもののブランディングを図る動きがより活発化していくという状況を生み出しているのです。
参考元:JR東日本「CSR報告書2013年版」
一歩先を行く民鉄各社、これからどう動くか
一方、民鉄会社はJR各社よりも早い時期から多角化展開を図ってきており、これまでも沿線の土地開発やホテル、百貨店、レジャー事業への展開など、既に非鉄道事業を重要な収益源として取り込んできました。今後は事業の選別を進めながら、より高い収益力を追求する局面を迎える段階にあるといえます。
大手民鉄会社では、各グループ会社に対して達成すべき経営指標を明示するなどして、グループの収益力向上を図り、グループ事業の再編を急いでいます。沿線の商業施設やオフィス賃貸などへの投資のみならず、本業から生まれるキャッシュフローを活用して比較的高い収益性が期待できる都心部を中心に沿線外への投資を展開する例もあるようです。
鉄道業界を取り巻く環境は、長期的には人口の減少で高成長は期待しにくい反面、駅の持つ集客力は鉄道会社の大きな資産であるといえます。今後はその集客力をさらに活用しつつ、関連事業への投資および収益化で、いかにしてグループの成長力を高めていくかが注目されているのです。
事業の多角化の今と、これから
これまで見てきた通り、各鉄道会社はそれぞれ他の事業を行う業態との関係性を強めながら、動きを加速させてきました。人口の増加が見込めない今だからこそ、新たな方法での収益構造を生み出さなければならない、という流れは止められないでしょう。そのため今後さらに多角化は進み、人々の生活の中心部に鉄道会社が進出してくることが考えられます。
一方、多角化を押し進めるのみならず本業である鉄道事業でも、新たな視点から収益増加ができないのか考える動きは見られます。その代表的な例が、JR九州の豪華寝台特急「ななつ星」です。これは鉄道の旅をさらに昇華させ、列車を「移動手段」ではなく、「列車が旅そのもの」という新しい捉え方を提示しました。
それでは次回以降の記事では、新たなビジネスによる経済効果や、メリット・デメリットなどを、具体的な事例と共にご紹介していきます。
電車1両をつくるのに、約2億円かかっていることは知っていますか?つまり10両編成の電車をつくるのに、約20億円かかることになるんです。新幹線を作る場合は、約45億円。各国が血まなこになって鉄道事業を輸出したがる理由も、ココにあるんです。次回はそれについてご説明しますね!