私は、前職では不動産管理会社に所属していました。今回は不動産業界の「督促」という仕事についてお話していきたいと思います。業界研究をしている方、職種研究をしている方は是非参考にしてみてください。
督促とは?
管理会社の業務は多岐に渡りますが、そのうちの一つに「督促」があります。督促とは、約束の履行を促すこと、主に法的な意味を含んで用いることが多いです。不動産管理の場合は家賃の回収をしなければなりません。回収できなければ、ただで住ませているのと同じわけですから大きな損害に繋がります。不動産管理において重要な業務の一つです。
督促って意外に楽しい?
督促って聞くと漫画の「ウ◯ジマくん」みたいな黒いイメージありますが、実は意外と面白い仕事なんです。だって、明らかにこっちの言い分が正しいわけですから、強気に出られますよね?つまり、だいたい勝ち戦の交渉ができるので、楽しんです。
賃料の支払いが遅れている理由は様々なケースがあります。次に挙げるものはその一例です。
- うっかり忘れてた
- 金額間違えてた
- 入居者が亡くなった
- 修繕お願いしてるけど直っていないから
- ちょっと待ってほしい
- 何のこと?
- そもそも払う気がない、電話に出ない、逆切れ
上の2つは連絡すればすぐに支払ってもらえることが多いです。金額相違は4月からの消費税増税以降、多くありました。修繕と関係する場合には、状況を確認する必要があります。しかし、基本的に家賃の支払と修繕は無関係です。現状をお伝えして、お支払いを促すように説明しましょう。後半の3つが問題です。特に支払いの意思がない方に対しては法的手続も必要となります。これらについては下記で詳しくお話しします。
回収率を上げるには?
収入が少ない方、長期滞納者からは如何にして1円でも多くの額を1日でも早く支払ってもらうかが重要です。ただし、単に「早く払わんかい!」と言っても、「そんな急に言われても無理っすよ!」と言われてしまい、押し問答になってしまいます。このように支払う意思があるが金額が足りない場合には、ネゴシエーション的な見方が必要になります。これにはいくつかコツがあるので、それをお教えします。
まずは入金約束
取り敢えず入金約束をしましょう。しかし、無条件に相手の言いなりになってはいけません。例えば「今月末に2ヶ月分支払います」という場合。これを無条件に受け入れれば、
- もし支払いがなかった場合のリスクが高い
- 相手に「支払いが遅れても問題ない」と思われてしまう
- また次回も遅れるかもしれない
といったことが考えられます。このような場合には、必ず「今週1週間以内に家賃の0.5ヶ月分をお支払いください」といったように、足りない金額でも良いから支払うよう促します。
さらには、約束の内容を書面にすることも重要です。書面に残すことで証拠として残り、支払いが遅れた場合にはスムーズに法的手段へと進めることができるようになります。前職では電話越しに文書を書かせたケースもありました。
アメとムチ
実際にあったケースをお話ししましょう。半年以上滞納している方で、滞納額は100万円近くありました。連絡がつかず法的手段の準備を進めていたところ、ある日会社にお見えになりました。会社を解雇され、しばらく家を離れて仕事を探しながらアルバイトしていた。次の会社が決まったので支払について相談したい、とのこと。これに対して、下記の内容をお伝えしました。
- ムチ
半年間も滞納をしていたので法的手続を進めている。滞納を把握した上で連絡もしないのは言語道断。支払ができないのなら、収入に見合った家に引っ越してくれ。
- アメ
ご来社頂いたことで支払意思は充分に伝わった。会社の意向としては強制退去だが、個人的には長く住んで頂きたい。会社を説得するための材料を提示してほしい。
会社の意向と個人的な考えを分け、少なくとも個人としてはあなたの味方ですよ、というオーラを出します。すると涙ながらに「毎月家賃の2.5ヶ月分を支払う」という内容で約束を取り交わしました。この方は今もお約束通りにお支払い頂いています。
生活費が浮く方法を教えてあげる
こんなケースもありました。「長男の卒業式でスーツが必要になった」はっきり言ってスーツと家だったら家をまず確保してよ、というのが正直なところですが…滞納額も多くなく、すぐに連絡をしてくれる方だったので別の対応を取りました。
「スーツのレンタルサービスがあるので、こちらを利用してみては?」
これだけで1~2万円くらいは浮きますね。少しでも払って頂くことが重要なのです。
それでも回収できない場合には「法的手段」をとることも
滞納が長ければ長くなるほど回収が難しくなりますので、迅速な対応が必要になります。電話、訪問等でも回収できない場合には、滞納が1ヶ月続いた時点ですぐに法的手続の準備をした方が良いです。
督促状
書面による督促方法ですが、相手に届いていることを証拠として残すために内容証明を用います。滞納額、支払期日を明記し、期日までにお支払いがなければ法的手続を取る旨を伝えます。会社名よりも弁護士名を使う方が効果的です。手紙のようなものですが、これだけでもお支払い頂ける場合はあります。
支払督促
裁判所を通した督促方法で、支払督促というものがあります。聞き慣れない方が多いと思いますが、一般的な督促状より法的効果があり、かつ、訴訟よりも簡易的なものと考えて下さい。また、うまくいけば2ヶ月〜3ヶ月程度で強制執行まで進めることができるのも大きな特徴です。弁護士や司法書士を通じて手続きをするのが通常ですが、個人でも行うことができます。費用も安いので、滞納が1.5ヶ月ほど経過したらすぐに手続を進めましょう。
訴訟〜強制退去
訴訟は費用も時間もかかります。しかし入居者が部屋の中にいる以上は募集ができないので、長期的に見ればお金をかけてでも退去させた方が利益があるのです。滞納が2ヶ月になった時点で訴訟手続を始め、いち早く解決に導くことが重要になります。また管理会社としては、オーナー様に早期解決を促すための提案力が必要です。弁護士の方を含めて打合せをし、実際の事例を含めて説得することが早期解決に繋がります。
まとめ
長くなりましたが、
- 督促って意外に楽しい
- 相手を説得する心理戦みたいなもの
- 様々な法的手続を駆使して戦う
上記が伝われば嬉しいです。もし今後みなさんが督促業務に携わることがあれば、参考にして頂ければと思います。